本を読む時間
- 「空白の五マイル」角幡唯介
- 作者: 角幡唯介
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/11/17
- メディア: 単行本
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チベットの奥のツアンポー峡谷の探検、そして冒険。
純粋な登山記ではない。今の時代に、まだ冒険するようなところがあるのか。どうしてツアンポー峡谷が特別なのか、今までに歩いた人はいなかったのか。十分な説明があった上で、自分の記録が綴られる。
そう、自分の記録。はじめは、探検した人じゃなくて、ライターさんが書いてはるんかと思っていたら、本人が書いてはるそうな。100年近く前の事実など、英語の文献もたくさん読んでよう調べてはるなあ、文章もわかりやすくておもしろいし、と思って読んでいたので、びっくり。角幡さんは、朝日新聞の記者を5年してはったそうな。そか。
学生時代に2回、新聞社をやめてから1回、同じ場所を目指して探検をしてはる。山や川の描写、自分の心、状況の説明。おそろしいほどの体験を、淡々と、でも切実さが伝わる文章で書いてはる。体と頭の力、両方使える人や。
山登りには、ルートや荷物や体力や天候、いろんな要素を考え合わせる頭が必要。グループで登るなら、リーダーとして登るのか、メンバーとして登るのかで、全然違う。今回の角幡さんは一人だったから、まずその力がいる。
さらに、文章にする力。ツアンポーに登ることが、どんなに大変なことなのか、私にはわからないから、ちゃんと納得できるだけの説明があって良かった。
(大変さの記述については考えたことがあって、例えば立花隆さんの文章だと、大変さを強調して読み手の期待を盛り上げる力が強すぎると思う。読んでいるときは確かにおもしろいんだけど、読み終えてしばらくして冷静に考えてみると、うーんこれ、本当はおもしろいと思えないかも、という逆の落胆がある。)
それから、いちばん惹かれるのは、角幡さんの山に対する姿勢。それが伝わるいい文章だと思う。
最近、石川直樹さんの文章も、やっと素直にいいと思えるようになった。前は、いくら大きな山に登ったからって、それで本を出すなんて大げさ、素直に山に登って楽しいって思ってたらいいやん、って思ってた。山に登って、それを仕事にできるのがうらやましかったのかな。
でも、石川さんの文章や写真を見ると、本当にいいのよね。
山に登る人が、文章を書いて、写真を撮る。文筆家はみんな下地を持って文章を書いている。山登りのことを下地にして文章を書くのも、いいことだね。好きなことを生業にできるのも、いいことだね。私自身、好きなことを生業にしてるやん。我慢しないとだめ、つらいのが仕事、じゃないんだよ。
- 作者: 樋口一葉
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1993/12/15
- メディア: 文庫
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- 作者: 樋口一葉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/01
- メディア: 文庫
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前に読んだ時は、1文であきらめたよ。主語がないから、誰の話なのかわからない。長々と続く文章で、区切りもわかりにくい。古語が多いため、さらに意味が取りにくい。名作なんだろうけど、昔の名作なんだろうと思ってたんよね。
改めて読んでみて、こんな素敵な文章があったんやって、嬉しくなった。薄い絹の向こうにあるものをなでるように、人々の気持ちが伝わってくる。ダイレクトではないのに、気持ちはよくわかる。景色を描写する文章の美しさ。そしてなにより、和語のリズム、流れる文章が心地よい。名作やね。
文章に改行を入れて、注釈として、わかりにくそうな単語や文章の解釈、当時の時代背景を説明している。それだけでさらり、すっきりと読めるようになった。山田有策さんという学者さんによる編集。ありがたいことだなあ。
素敵な文章がそこにあって、それをどのように感じるかは、私たちの自由でもあるし、私たちの力にもよる。文章の構造をとらえたり、単語の意味を知っていたり類推できたり、そんな基本的な語学力がいる。赤いバラと書いてあるときに、頭の中にバラを絵として描く想像力もいる(私の場合は、絵を思い浮かべていなくて、文章をそのまま文章として感じ取ってるみたい)。文章の全体から、雰囲気や気持ちや伝えたいことを考えたり、文章の外にまで広がって、自分で空想したり、何かを考えるきっかけにしたりする、感受性もある。そして土台には、読み手がどのような経験をしてきて、どのような体を持っていて、どのように考える性格か、など、その人自身がある。そうやって広がっていくのが、本を読む楽しさだと思う。意味がわかるんなら本読む代わりに脳に注射でインプットすればいいや、じゃないんだよね。